「鍛造鋏」が愛され続ける理由
- toyamahamono
- 23 時間前
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園芸の世界で、多くのプロや専門家が愛用し続ける「鍛造鋏」
その理由は「切れ味」にあります。具体的には、刃が植物を捉える瞬間の「食いつき」や「切り開く力」が発揮する「切る」という動作においての絶妙な安定感です。
料理で使う包丁とは違い、鋏は「二つの刃が正しく組み合わさって」初めて真価を発揮します。単に刃先が鋭いだけでは不十分であり、刃がどのように作られ、二つの刃が重なる接点(私たち※合刃-あいば- と呼ぶもの)がいかに精密に調整されているか、それが切れ味の鋭さと、手にかかる負担を大きく左右しています。
外山刃物は1861年、新潟県三条市で創業以来、一貫して「鍛造」の製造法にこだわり、さらに切り込みの鋭さを極めるための「マイクロベベル(二段刃)」を用いない独自の刃付けを追求し続けました。
この記事では、製造者の私たちの視点から、鍛造と一般的な大量生産(プレス加工)の違いが、切れ味や耐久性にどう現れるのかを解説します。
植物を切っている時、こんな悩みやお困りごとに直面したことはありませんか?
1) 切り口が潰れたり、皮が残ったりする
剪定やフラワーアレンジメントをしていて、切り口が潰れていたり、最後に繊維が残って皮が剥けてしまったりしたことはありませんか?これは「刃先の鋭さの低下」「刃の噛み合わせ」それらが不十分である時によく起こる問題です。刃先の鋭さが低下している鋏で植物を切ることは、「切断面」が汚くなり、植物の健康を損ねてしまう原因を生み出します。


2) 「食いつき」が悪いと感じる
枝を切る際、刃がスッと入っていかない、あるいは抵抗を感じ、余計な力が必要だと感じる。それは「食いつき」が甘い証拠です。これは作業スピードや腕の疲労に影響します。研ぎ直せば一時的に改善することもありますが、鋼の質や熱処理による刃の硬さ、刃の設計角度が適切でないとその鋭さは長く続きません。

3) 左右の開閉がスムーズではない
良い鋏かどうかは、刃の制度だけで決まるものではありません。刃が重なり合う感触、その接点を生み出す加工技術があるからこそ安定した品質が維持しています。比較的「安価」なプレス加工の鋏は薄い板材で作られていることが多く、安定した「熱処理」や「摩耗・耐久性」に限界があるため、長時間の切断作業や剪定において、金属疲労や摩擦などから左右の嚙み合わせが狂い始め、切れ味の低下=品質の低下が比較的早く起こり始めます。
「 製造方法の違いが、なぜ結果を変えるのか 」

簡単に比較してみましょう。
プレス鋏(打ち抜き): 金属の板を型で抜き、曲げや穴あけ加工をしてから熱処理・研ぎを行います。比較的工程数も少なく機械加工生産が主となり大量生産向け、形が均一でコストを抑えられるのがメリットです。
鍛造鋏(たんぞう): 一定温度で熱した素材の組織を再編させ、組織の密度を高めすさまじい程の硬い素材を造り出します。その状態を始まりとして、熱処理、研ぎを行います。比較的工程数は多くなりコスト的にはプレス製品よりも高くなりますが、理想の耐久性と切れ味を造り出すことが出来ます。(この製法は「日本刀」の作り方と同一)
ここで大切なのは、「鍛造鋏が絶対的に良く、プレス鋏は悪い」というわけではない!ということです。プレス鋏には、安さ、軽さ、初心者の方の入りやすさという大きな強みがあります。一方で鍛造は、長期的な切れ味と耐久性の維持、より専門性を高めた作業や植物に対する効果を発揮する。 という違いを説明しています。
鋏の刃の硬さを決める主な要因は「熱処理(焼き入れ・焼き戻し)」です。しかし、鍛造のプロセス(叩く工程)を加えることで、金属内部の粒子の並びを整え、より粘り強く、壊れにくい構造へと素材を導くことができます。
熟練の職人が適切に鍛造を行うことで、以下のようなメリットが生まれます。
刃こぼれしにくく、切れ味が長期間長持ちする。何度も研ぎ直して使える。
硬さの強みがねじれや衝撃の強さを発揮する。
長年使っても「芯」がしっかりしている。

鋭い切れ味を生み出す「 裏刃 」
実は、鋏の切れ味を支える最も重要な工程の一つが「裏スキ」です。多くの人は表側の刃に注目しますが、内側の面が正しく調整されていなければ、どんなに刃を研いでも長期間持続する心地よい切れ味を得ることができません。

刃の内側は一見平らに見えますが、実はわずかに凹んでいます。これを「裏スキ」と呼び、刃の先端部分に鋭角を造り出し、刃同士が接する面積を最小限にすることで、摩擦を減らし、スムーズな切り込みの動作を実現させています。この「見えない調整」こそが、安定した食いつきと植物への美しい切り口を生み出すのです。
鋭い切れ味を生み出す「 もう一つの技 」
プレス鋏の主な刃付けの製造方法として、刃先の切断時に起こる衝撃を緩和するため「マイクロベベル(小刃、段刃)」という二段刃角度が用いられています。しかし、私たちより鋭く切り込みを高めるためにあえてこの製法は行いません。

私たちの目的はシンプルです。「究極に鋭さ」を優先すること。
「精密な熱処理」+「擦り合わせ」+「裏スキ」を融合させることによって安定する品質により余計な角度をつけずに、スッと吸い込まれるような切れ味を実現させています。
この切れ味が、植物を健康に導き、無駄な疲労を抑え心地よい作業性を生み出しています。
世界のプロフェッショナルに愛されて
私たちの鋏は、日本国内だけでなく海外のクリエイターからも信頼を寄せていただいています。
ニュージャージーを拠点とするフラワーデザインスタジオ「Blue Jasmine Floral」の創設者、パウリーナ・ニェリウォツキ(Paulina Nieliwocki)さんもその一人です。

スウェーデンでもっとも歴史の古いガーデンストア「 ZETAS 」は、より園芸によい製品を共同でデザインするビジネスパートナーです。
求められるもの、それは「 信頼 」
プレス鋏には、その手軽さという素晴らしい価値があります。しかし、もしあなたが「長く続く切れ味」や「道具との一体感」を求めるなら、鍛造鋏はあなたの最高のパートナーになるはずです。
私たちは、単に「切れる」道具を作っているのではなく、手の中で心地よく安定し、植物をいたわり、使うたびに喜びを感じられる。その素晴らしい世界を皆様にお届けできることを心から願っております。
ブログ:はさみのおと
著 者:とやまはもの
外山刃物 ホームページ
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