剪定鋏の「A型」「B型」とはなにか。

日本のハサミのタイプ名(種類)は、地域による「津島」「津軽」や、製法による「A型」「B型」外観の形状、あるいは説が多く起源がはっきりしていない「大久保」といった、さまざまなルーツに由来しています。これらは統一された一つの分類体系ではありません。さらに、バネのない「植木バサミ」と、バネが付いた「剪定バサミ」という、二つの異なる道具の伝統をまたいで存在しています。
日本の庭鋏について知っていくと、必ずこれらの名称に行き当たりますが、ある名称は地域を示し、ある名称は道具の製法として始まりました。また当時の製法から変化した現代においても形状を表す名として使われ続けているものもあり、言葉の由来自体が不確かなまま標準名として定着したものもあります。これらの名称は、異なる背景—地域、製法、形状、あるいはその道具を育んだ歴史を宿しているように感じます。
二つの道具の伝統(系統)を区別する

「木鋏」
日本の伝統的な庭で使われている「木鋏」にはバネがありません。職人の間では「蔓手(つるて)」とも呼ばれ大きな輪の柄(手元)を備えており、刃を開く動作も閉じる動作もすべて自身の手で行います。
この大きな輪には明確な理由があり、柄を押し戻すバネが存在しないため、開閉動作の動き手元でコントロールし、手から鋏が滑り落ちることをガードしています。

「剪定鋏」
日本の剪定鋏は、切刃と受刃の構造を持ち、一度切るたびにバネの力でハンドルが開き直ります。西洋的な表現をすれば、バイパス式(すれ違い型)の作動原理です。
この形状は元々、果樹の剪定用としてヨーロッパで開発され、明治時代に日本へ伝わったと記録があり、その後日本の職人たちが独自の製造方法を確立していく中で、この剪定鋏という種類の内部で「A型」「B型」といった名称が生まれていったと伝えられています。これらの名称は「二つの道具の伝統(系統)」のなかに存在しているのです。
「A型」「B型」— 製法の違いが名称へと変化した経緯
「A型」ふたつの素材を接合(ロウ付け)した構造

伝統的な「A型」の製法では、本体(ハンドル)部分に鋳造鉄が使用され、刃先となる部分だけに硬度が高く高品質な刃物鋼を真鍮ロウ付け(接合)していました。この「A型」という名称のポイントは、ハサミの外観や柄の形ではなく、あくまで構造(製法)に由来していた点にあります。
その背景には実用的な理由として、ハサミ全体を同じ高価な鋼材で作るのではなく、切れ味が求められる刃先だけに硬く高級な鋼材を配置することで生産効率的な観点が優先されていたと考えられます。とあるハサミ鍛冶に残る記録によると、この構造で作られた剪定バサミは「比較的重厚ではあるものの、非常に丈夫で切れ味が良い」と評価されており、農業に機械化が導入される以前の時代において、広大な木の剪定作業が大量に必要とされていた時代に、大変重宝されたとされています。
「B型」一体鍛造による構造

伝統的な「B型」の製法では、金型を用いて1本の丸鋼(鋼の丸棒)からハサミ全体を鍛造していました。刃と柄(ハンドル)はロウ付けで接合されるのではなく、一本の連続した本体として成型されたのです。
昔はこの方法で硬い鋼を加工すること自体が難しく高コストであったため、職人が実用的に使用できる素材には限りがあったと伝えられていますが、時代が進むにつれ流通する「鋼材」の選択肢も広がったことで、一体成型でありながら多様な素材からハサミを作ることができるようになったと言われています。
この製造環境の変化こそが、「A型」「B型」という名称の本来の意味合いを緩めるきっかけとなりました。伝統的なロウ付け製法が徐々に少なくなっていく一方で、「A型」という言葉自体は残り続けました。往年のA型特有のフォルム(形状)を踏襲しながらも、実際には一体鍛造で作られている「A型」の剪定鋏も流通し始めました。この傾向は現在も続いており、「A型剪定鋏」と記載されている剪定鋏には、昔ながらのロウ付け構造のものと、そうでない一体鍛造のものが現代には流通しています。名称そのものは現代も引き継がれておりますが、それが指し示す対象はより幅広い「形状(デザイン)」の意味へと変化し始めています。
実際に使ったときの「A型」と「B型」の違い

呼び名の由来や製造の歴史は、実際にハサミを使った際に実感する魅力のほんの一部分に過ぎません。現在の日本における一般的な認識では、「B型」のフォルムは厚みがあり丸みを帯びた「ハマグリ刃」の刃付けと結びつけられています。このやわらかく膨らみを持つ刃構造は木に刃が食い込む際の「摩擦」や「切り開き」を軽減するとともに、硬い枝や太い枝を切る際の「楔(くさび)を打ち込むような強さ」を生み出します。一方、「A型」のフォルムは全体的に薄刃に仕上げられる傾向があり、刃が物体に抵抗なくスムーズに入り込みます。そのため、きれいに切り込む(スライスする)アプローチが適した、繊維質の樹皮の剪定などに適しています。
愛されるづける東北地方の「津軽型」とは

「津軽型」は、果樹栽培が非常に高度に専門化していった青森津軽の「りんご王国」の中で発展を遂げました。
果樹園とこの道具との結びつきは、極めて詳細な記録として残されています。弘前市の歴史資料によれば、1904年(明治37年)頃、新しい剪定技法や栽培技術が急速に普及する中で、市内において最初の「りんご剪定バサミ」が作られたという伝承が記されています。同資料には、この金属加工の伝統が現在の「津軽手打ち刃物」へと今なお受け継がれていることも付記されています。りんごの育成において、おひさまの光を多く取り入れるため、横に広く枝を矯正して育成する必要があり、枝の剪定も横、あるいは下に向けて鋏を使用する頻度が多くあるため作業性を考え独特なカーブしたフォルムが生まれたと伝えられています。 持ち手の間にある「スプリング」は何千、何百と剪定する作業者への手に伝わる衝撃を和らげるために取り付けられた「衝撃緩和クッション」です。
基準となる万能庭鋏 ー「大久保型」

庭鋏の中でも「大久保型」(おおくぼがた)は日本で最も親しまれている汎用的な形状のひとつです。日常の庭木の剪定から盆栽、生け花まで幅広く使えるため、より専門的な伝統美を持つハサミと比較する際の基準として最適です。外山刃物の「T1」「T1S」「T12」も、この大久保型の鋏に分類されます。特に「T1」における多用途性は、その刃の形状によく表れています。刃先を使えば繊細な間引きや樹形の調整が行え、刃元(太い部分)を使えば小枝や細い枝をしっかりと切断できるという、1丁で2つの役割を果たす設計になっています。これこそが、T1が万能な庭鋏として幅広い作業に対応できる理由です。もし芽切鋏やバネ付きの剪定鋏との間で迷われている場合は、こちらのタイプも参考にしてください。
また、同じ大久保型の中でも、生垣の手入れや葉刈り作業に適した長刃タイプなども存在します。
ちなみに「大久保」という名称については、江戸時代の旗本である大久保彦左衛門に由来するという説もありますが、日本のハサミの歴史に関する標準的な記録において裏付けられているわけではありません。日本を代表する最も有名なハサミの名称のひとつが、ルーツを特定できない由来を持っているというのも味わい深い話ですね。
中部が生み出した専門的な植木鋏 ー「津島型」

津島型(つしまがた)は、愛知県津島エリアに由来する、植木バサミの中でも非常に専門的な形状をもつハサミです。そのプロポーションは、見慣れた大久保型とは一目でわかるほど異なります。津島型のハサミは胴(肩)と柄が長く作られており、支点(カシメ)から手が遠い位置にくるのが特徴です。そのため、同じ握り力でも「てこ」の原理が大きく働き、細長い本体が樹木の入り組んだ狭い隙間までスッと届きます。この組み合わせは、長い松葉を避けながら葉の奥深くまで刃を入れ込む必要がある松の手入れにおいて特に威力を発揮します。
この構造は、バネのない日本の伝統的な和バサミとしてはかなり珍しい部類に入ります。一般的な植木バサミの多くは手を支点(カシメ)のすぐ近くに置いて作業するのに対し、津島型はその真逆のアプローチをとっているからです。
津島型植木バサミ「T1-2」は、「T1」が繊細な刃先と力強い刃元で役割を分担しているのに対し、「T1-2」はよりスリムな刃のラインを中心に設計されています。当社のモデルでは、刃の背(峰)を丸く削り落とす加工を施すことで、混み合った枝葉の隙間にも刃先が滑らかに入り込み先端がはっきりと見える「しのぎ」刃で加工されています。
このように、津島型は「現代にも生き残っている、こだわり抜かれた専門職人のためのハサミ」として存続しています。
おわりに
これらの名称は、現代的な分類体系として捉えようとすると混乱を招きます。「津島」や「津軽」のように特定の「地域」を表す名称もあれば、「B型」のように「製法」を表す名称もあります。そして「A型」のように、本来の製法が主流でなくなった後も名前だけが残るケースも存在します。園芸鋏の世界には「さつき鋏」「小枝切鋏」といった植物由来の名前も存在しておりますが、近年では必ずしもそのためだけに使用される道具ではなくなっており、分類を越えた幅広い用途に使われている傾向が高まっています。 起源(ルーツ)を知ることで時代が見え、道具においてもより深まる楽しみ増えてくるのではないでしょうか。



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